あるべき介護と見守りサポートシステムへの要望(Part2)

伊藤順哉様(株式会社つるかめ 代表取締役社長:左)× 間瀬樹省様(ケアスタディ株式会社 代表取締役:右)

引き続き、介護業界で高名な天童市の「つるかめ」の運営に携わっていらっしゃいます伊藤様順哉様と、ご推薦いただいたケアスタディ株式会社代表取締役の間瀬様樹省様にお話をうかがいました。

転倒検知の意義


— 転倒を検知することの意義について、どのようにお考えですか?

間瀬様:日本では過度に「とにかく転ばせてはいけない」という考え方がありますけれども、日本老年医学会で最近出たステートメントを見ると、「人が生活している以上転倒はどうしても避けられない」ということが明確に謳われているのですね。
わたしたち設計者としてはなるべく転倒しないための環境づくりを一生懸命考えますし、もし転倒してしまってもそれを優しく受け止めて骨折を防ぐ床にする、このようなことを環境づくりで考えます。それでも転倒は起きる。それなら転倒をいち早く見つけてなるべく早く対応するということに考え方をシフトしていくべきじゃないかなと思うのです。「転倒させない」といっても100%ずっと見守りをするのは難しいです。
もうひとつ言いますと、以前私の会社にインターンで来た大学院がいまして、その方の修士論文は「見通しの良い施設」と「見通しはよくないけど過ごしやすい施設」のどちらがいいのかということを比較した研究内容でした。どちらの施設で転倒が起こりやすいかというと、発生頻度に差はなかったのですね。転倒を起こすのは利用者で、いくら見守っていても目の前で転倒することだってあるので、それは変わらなかったのです。
見通しがいい施設は転倒が起きた時に早く駆けつけることができるかもしれない、しかし見通しがいい施設は逆に職員の目がずっとあって住んでいる人にとっては監視されていると感じる面もあって、過ごしやすいとは言えません。どのような施設でも転倒は同じように起きる。であれば転倒した状況をなるべく早く知ることが大切で、そのために過度な見通しの良さにこだわるのでなくITの仕組みを上手に使うという考え方もあると思います。私は暮らしの場にIT機器が入ることについて少し抵抗があったのですが、これだけITが世の中に普及してきたので、やはり「人はITと仲良く付き合っていく必要がある」ということを最近は意識しています。プライバシーに配慮しながらどのように機器を導入していくか、利用者の方の納得を得ながら使うということを考えながら上手に付き合っていくことが必要かなと思っています。

ケアスタディ株式会社 代表取締役 間瀬樹省 様

— 日本老年医学会から出たステートメントについてもう少しお考えを…

間瀬様:明確に「転倒は起きるんだ」と言っていただいたことはいいことだと思います。過度に「とにかく転ばせないでくれ」というご家族がいるのは日本だけでしょう。他の国では「転ぶのは自己責任なので、転んだらしょうがない、そのあとのケアはきっちりします」という考え方です。
ご家族が、今度転んだら大変だからとおっしゃる。そうすると施設側としては「転ばせないように=動かさないように」になるわけですね。でも、実は活動させないことは利用者の能力をどんどん悪化させていくことになるので、むしろその方にとって良くない結果を招くことが多いですから、明確に「転倒は起きる」ということを発信してくれたことはとても意義のあることだと思います。

プライバシーとの両立


— 見守りとプライバシーの両立についてはどのようにお考えでしょうか

伊藤様:私がこの業界入った頃って、まだカーテンが主流だったんです。施設側の良さとしては「見守りしやすい」、ただ暮らす側としてはカーテン一枚でプライバシーなんてものは保たれるものでもない。
今のような個室タイプでしっかり扉がついている方が間違いなくいいのは判ってます。
施設を経営する側としては、個室の中でどういった動きが行われているのか分からないことが問題です。
転倒は起きるものだと思ってます。
ほんとに「転倒させない」となると、それこそもう動けなくして…行動を抑制するしかない…そんなことは到底、我々としてはできない。
ご自身で動いていただくという自立支援を中心にやってる我々としては、転倒というリスクと常に隣り合わせにやっているという状況です。
転倒はそれでも起きる…そのとき、事故の検証…どこにつまずいたのか、どのタイミングで例えば膝折れしてしまったのかとか、そういう事が全然わからずに、結果、見つけたときにはもう横になってる…それではなかなか次の改善策というのを打ちにくいですし、ご家族への説明もできない。居室の中でただ転倒がありましたという報告しかできない。
居室の中をプライバシーに配慮しながら、かつ見守りができるのであれば、それは理想ですね。
これは課題にはなると思うんですが、自分の部屋にカメラが見えるところにあるというのは、その心理的ストレスは、いくら画像とか動画とか直接誰かが見ているわけでは無いとはいえ、やっぱりカメラがこっちを向いてるところで自由にしてもいいよと言われてもなかなか難しいんじゃないかなと、これは次なる課題になるかなと思います。

プライバシーについては徹底したセキュリティをかけてておりますが、カメラの形状については改善予定でございます。

間瀬様:プライバシーというと、かなり国によって考え方が違いますね、日本ではその人の情報は全てプライバシーという感じですが、これがヨーロッパに行くと、例えば脈拍数とか呼吸数とか、これは別にプライバシーに当たらないだろうということで、入居してる方の身体の状態を常に把握しておくということが当たり前に行われています。フィンランドの施設では腕時計型の機器をつけて、それで利用者の状態を常にウォッチしている、それで何か危険な状態になったら対応していると聞いています。これが日本ですと、そういったこともやはりプライバシーという考え方がまだまだ根強くあって、そういった機器を導入することに対して少し抵抗があると思います。私自身もそういう考え方を持っていましたが、どこまでがプライバシーかという考えを少し柔軟にして、ここまでの情報を提供するから、その分きっちりサポートして欲しいというような考え方に少し変えて行く必要があると思っています。
それと伊藤さんがおっしゃったカメラのことは正にそうでして、私も部屋にカメラがある状態で暮らすというのにはすごく抵抗があると感じます。今回のシステムも実際には関節位置を測定してその関節位置の情報だけで判定するので普段映像を見ることが全くないと判っていてもカメラが置いてあるということに抵抗を感じるという面があると思います。自分がもし転倒したときにいち早く駆けつけてもらうための仕組みであるということが解っていても、監視されている感じを和らげる工夫をしていかなければならないのだろうと感じています。
これから私達は人口減の世の中で暮らしていかなければなりませんので、皆さんも私自身も少し柔軟に考えて、人の仕事を補うシステムとの付き合い方を考えていかなければならないと思います。

間瀬様:世の中の様々なシステムが、プライバシーにしっかりと配慮した上でより良いものになって行くのだろうと感じています。御社の仕組みも、実際に計測をしながらデータをクラウドで処理してゆくことで、どんどん学習して精度が高まっていくというお話もありましたので、システムが普及して検知の精度の向上がさらに進んで行くといいなと思います。

— 私たちも改善研究を進めてまいります。今日は、ありがとうございました。

一同:ありがとうございました。